「財政制約があるからソフト施策を中心に」という考え方は十分理解できる.しかし,「建設」部門の「技術」士になるために受験しているんだから,建設技術の根本であるハード施策を忘れてはいけない.個人的には,ハード施策:ソフト施策の割合が7:3ぐらいでいいんじゃないかと思う.
ソフト施策と言えば「自助・共助」も一種のブームだろう.どことなく心強く聞こえる「自助・共助」だが,技術者(防災の専門家)が果たすべき役割を放棄しているだけではないだろうか?
実際,避難指示・勧告をアナウンスするのは簡単だが,当地から避難すべきか(それとも留まるべきか)という判断を下すことは技術者でも難しい.安全サイドに考えて健常者を強制避難させることは容易だが,災害時要援護者もいるわけで…….
現在の「自助・共助」というスタンスは,技術者でも難しい選択を,素人である国民自身(あるいは地域住民の総意)に求めているだけではないかと……極端な言い方かもしれないが.
チリ大地震に伴う大津波警報は記憶に新しいと思うが,避難指示・勧告が出された地域の避難率は37.5%だったらしい.そのとき技術者は,水門閉鎖や待機状態など「公助」の役割は果たしたはずだ.でも,国民に向かって“具体的にどう行動すべきか”まで指示・強制はしていないと思う.防災情報を垂れ流しただけで,“実際にどのような行動を取るかは国民で決めてください”という「おまかせ状態」だったのではないか.2008年以降の大規模地震を挙げてみました(全部は網羅していません).
それぞれの被害状況は各自で調べてみてください.とかく目を奪われてしまう犠牲者の数だけでなく,東名高速の盛土崩壊や太平洋沿岸への津波伝播など,社会資本整備に関する状況も再確認したほうがよいと思います.
2008年5月12日:四川地震(M7.9)
2008年6月14日:岩手・宮城内陸地震(M7.2)
2008年7月24日:岩手県沿岸北部の地震(M6.8)
2009年4月 6日:イタリア中部の地震(M6.3)
2009年8月 9日:東海道南方沖の地震(M7.1)
2009年8月11日:駿河湾の地震(M6.4)
2009年9月 2日:インドネシア・ジャワ南方沖の地震(M7.0)
2009年9月30日:サモア諸島沖の地震(M8.0)
2009年9月30日:スマトラ島沖の地震(M7.6)
2010年1月13日:カリブ海ハイチの地震(M7.0)
2010年2月27日:チリ中部地震(M8.8)
2010年4月 7日:スマトラ島北部の地震(M7.7)
2010年4月14日:中国青海省の地震(M6.9)
例えは悪いが,寿司の作り方という情報を与えて吉野家の店員に「おまかせ」を握らせる行為と,防災情報を与えて素人である国民に避難行動を「おまかせ」する行為,これらは似たり寄ったりではないか?
人的被害の未然防止という目的から考えると,大津波警報は大袈裟すぎるぐらいでよいと思うが,それが繰り返されてしまうと,大津波警報の信憑性が揺らぐというか,オオカミ少年と同じ扱いをされてしまう.
チリ大地震のとき避難指示を無視した国民に,“何も無かったじゃないか……避難指示を無視して当地に留まった自分は正しい”という歪んだ自信を与えてしまったのかもしれない.村の羊がすべてオオカミに食べられるのは童話だが,へたな自信を持った国民が津波にさらわれるのは悲劇にしかならない.
どことなく心強く聞こえる「自助・共助」の本質を国民にきちんと伝えているんだろうか?
―今日のことわざ―
藁千本あっても柱にはならぬ
“技術や競争力の熟度,海外市場のニーズ等がそれぞれ異なっているため,個別分野毎にその特性に合わせて戦略的に取り組んでいく必要がある”と書かれているが,まさしくその通りだ.でも,日本の技術力の高さばかりが強調されていて,新興諸国のニーズという視点での記述が甘いような気がした.
よく聞く話だが,インドの冷蔵庫は鍵付きじゃないと売れない,大音量で運転するクーラーが売れ筋……など,新興国では日本と真逆のニーズがある.メイドのコソ泥対策やクーラーの所有自慢ということらしいが,日本人では考えられないニーズだと思う.
インドの白物家電ばかりを挙げたが,衣料品やクルマにも同じことが言える.高品質・低価格を売りにしているユニクロが新興国すべてのニーズを満たしているわけではない.また,高品質のBMWを求めている人もいれば,低価格のマルチ・スズキを求めている人もいるわけで……それこそニーズは千差万別だ.
回り道をしてしまったが,結局インフラにしても同じだと思う.新興国には新興国なりのニーズがあって,先進国の日本とはニーズも異なるということ.特に品質と価格という点で,日本人は大きな勘違いをしているような気がする.先進国では高品質と低価格の組合せが常識だが,新興国ではホドホドの品質でハチャメチャ安い価格が望まれるケースも考えられる.
すでに白物家電で実証されていることだが,新興国の消費者に日本製品は高すぎる(いわゆる高嶺の花状態).だから,わざと製品の機能レベルを落として,圧倒的な低価格で勝負する韓国製品に消費者は群がってしまう.
インフラ整備でも同様な事態になる可能性はある.日本自慢の高品質をアピールするのもよいが,新興国はホドホドの品質を求めているだけかもしれない.つまり,嫌がっている相手に高品質を押売りしているだけかもしれないということ.そこらへん新興国のニーズを的確に把握できるか否か,これに海外進出の成否がかかっていると思う.
毎度のことだが,話は高速道路の料金体系にガラッと変わる.
先日の記事“一時的な人気取り”で紹介した新料金体系が暗礁に乗り上げている.道路科目で受験される方には多難続きとしか言えない……でも受験者全員が同じ条件ですから.
前原国交相が高速道路の新料金の6月実施を断念してしまった.新料金体系への移行時期は明らかにされていないが,参院選前の料金変更は絶望的のようだ.地方路線を中心とした高速道路の一部無料化は,予定通り6月下旬から始めるらしいが,それ以外は,しばらく「休日上限1000円」などの現行割引が継続することになりそう.
前原国交相に限らず,政治家は信用第一の商売なんだから,(極端に言うと)多少お金に汚くても性格が悪くても何でもいいから,とにかく「コイツはできるな」と思わせる必要がある.逆に言うと,やってることが二転三転してズブの素人レベルやないか?と思われたらいけないわけだ.現在の民主党のように大風呂敷を広げたままだと,いつまでたってもズブの素人レベルから脱出できないと思う.
―今日のことわざ―
所変われば品変わる
いきなりそもそも論になるが,知識量を試すだけの択一式の意義がわからないというか,普段の業務で使うことのない知識を頭のなかに詰込む必要があるんだろうか?誰もが最新情報へと手軽にアクセスできる時代なんだから,必要なときに必要とされる情報だけを調達してくる能力,これが備わっていれば十分だと思うのだが.
総監部門に求められている資質が曖昧だから,こうした理不尽な努力が必要になるんだろうなぁ?.でも,それが試験のルールである限り,文句を言っても始まらない.
択一式のなかでも,青本の内容が陳腐化している「情報管理」と「社会環境管理」が厄介な存在となる.多くの受験者は,何が出題されてもビビらない「満点狙い」と,青本の内容だけはクリアする「及第点狙い」,これらの間で葛藤することになる.最初っから「及第点狙い」では心許ないが,「満点狙い」は効率が悪いし非現実的だ.
“青本以外の情報をどこまで仕入れるべきか?”という悩みに対する答えは,“ある程度の線で割切るしかない”としか言えない.端的に言えば,「やめること」を自分で決めるしかないということ.自分で決めることができないのなら,どこかの国の首相を悪くは言えませんよ.
ちなみに,過去問を繰返し解いて覚えることは資格試験の鉄則であって,鉄則を置去りにして新たな情報を仕入れるのは愚の骨頂です.
以下のホームページで使われている語句の意味がわかるかどうか,だけでも確認しておけば有益かもしれません.“何のために情報を収集して,その情報をどう活かすつもりか”という「目的の明確化」を忘れずに.
○情報管理と社会環境管理,どちらにも「知恵蔵2010」は使えそうです.
該当する(たとえば環境)カテゴリのキーワード一覧に目を通すとか.
http://kotobank.jp/dictionary/chiezo/
○情報管理は「IT用語辞典」あたりが参考になるかも(取捨選択が必要).
http://e-words.jp/
○社会環境管理は「EICネット」あたりが参考になるかも(取捨選択が必要).
http://www.eic.or.jp/
当たり前のことですが,これらに掲載されている語句は,すでに前処理が済んでいるというか,ホームページの管理者(いわゆる赤の他人)が情報の取捨選択をしているわけです.
本来,情報の取捨選択は自分自身がすべきことですから,“膨大な情報のなかから『出題されそうな情報だけを』どのようにして抽出するか”,その最終的な判断は受験者一人ひとりに委ねられることになります.メディアリテラシーの本質は「自分で考える」ことにあると思っています.
―今日のことわざ―
彩ずる仏の鼻を欠く
「小さな政府」と「豊かな社会基盤」というトレードオフを解決する切り札らしいが,そんなに上手くいくのか……どうしても公社・公団や第三セクターの失敗が頭をよぎってしまう.
欧米と違って契約社会とは言えない日本(特に地方圏)で,官と民との契約によるガバナンスを重視するPPPが普及するとは思えない.それ相応に行政サイドの能力が問われるわけだし,社会資本の状況把握や公共投資の事業仕分け,リスクとリターンの査定など,あらゆる面で負担も重すぎると思うし…….
とは言っても,公共事業(ハード整備)に依存したままでは民間事業者はジリ貧だ.渡りに船じゃないが,農業や介護などの異業種に転換するぐらいなら,今まで培ってきたノウハウが活用できる「事業運営権」の争奪戦に参入するのも手かもしれない.
ネガティブなことを書いてしまったが,先日の記事“成長戦略会議”で紹介した「国土交通省成長戦略会議の重点項目」のなかでPPP/PFIは明記されているので,今年度の建設一般論文として出題されるかもしれません.今年受験される方は勉強しておきましょう.
PPP/PFIも突詰めると財政難の話なので,息抜きがてら市場の話でも.内閣、国土交通、財務各府省は空港・鉄道など公共インフラの整備や運営に民間の資金やノウハウを生かすPFIを拡大する。公共施設を運営する新たな権利を事業者に売却する方式を導入し、大阪国際空港(伊丹空港)などでの活用を検討。PFI法改正など立法措置や固定資産税などの税制優遇も検討する。民間資金の導入で財政負担を軽減し、老朽インフラの改修など必要な公共投資に対応する。
政府が6月にまとめる新成長戦略に盛り込む。PFIは設計から工事、運営、資金調達まで民間企業が手掛ける公共事業のやり方。日本では1999年に導入し、国・地方をあわせて昨年末までに計366件の事業計画を公表した。
ただ、大半は公務員宿舎、文化施設など小規模なハコモノ事業が多く、運営面などで民間の創意工夫を生かしにくかった。今後は道路、鉄道、港湾など大規模なインフラ事業にもPFIを広げるため、抜本的な制度改正に乗り出すことにした。
具体的にはインフラを整備、管理、運営し、料金徴収できる「事業運営権」を新たに創設し、民間事業者に売却する新方式のPFIを導入する。政府は売却収入を得る一方、民間事業者は公共施設を所有しないため、固定資産税などがかからない。……中略……
政府はこうした施策の具体化へ向け立法措置の検討に着手。内閣府が所管するPFI法などの関連法案を来年の通常国会をめどに大幅に改正する方向だ。ただ、政府内ではPFI法の手直しにとどまらず、民間委託などより幅広い官民連携を意味する官民パートナーシップ(PPP)も含めた包括的な立法措置を求める声も根強い。金融機関や経済界の要望も聞き入れながら、法律の枠組みを最終判断する。
「日本経済新聞 2010年5月7日」
昨日のNYダウ平均は,一時前日比998ドル安(取引時間中として過去最大の下げ)を記録,その後10分程度で500ドル近く値を戻した.100万単位で注文するところを,誤って10億と注文(ミリオンをビリオンと入力?)したらしい……おいおい100年に一度の誤発注か?
当然のごとく,毎度おなじみの「リスク回避の円買い」によって,円高も進行しているようだ.リーマンショックやドバイショックなど,何らかのショックが起きるたび,4つの国際通貨(ドル,ユーロ,ポンド,円)で一番堅実な円(貿易黒字国)に殺到するんだよなぁ?.つい先日,日本国債の格下げがどうのこうの言っていたのに,ご都合主義もいいところ.
それにしても,財政難が懸念されているPIIGS諸国(ポルトガル,イタリア,アイルランド,ギリシャ,スペイン)を抱えるEUの状況を見れば,鳩山政権がアピールしている東アジア共同体もかなり危ういと思うんだけどなぁ……とりあえず二番底の心配が先かも.
―受講者さんへの確認依頼―
現時点で,建設部門は専門想定問題その13・建設一般その5(共に最終問題)まで「配信済み」です.総監部門は想定問題その10(最終問題)まで「配信済み」です.
もし手元に届いていないようでしたら,メールで連絡してください.セキュリティソフトによっては,送付したメールが弾かれているかもしれないので.